のどかな一人旅のお話。

暇さえあれば日本全国を飛んで、乗って、歩いて。そんな会社員のお話。

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日本最長”だった”路線バス。「天北宗谷岬線」を乗り通したお話。

かつて北海道には、天北線という鉄道が走っていました。

宗谷本線から音威子府*1駅で分岐し、中頓別*2、浜頓別*3、鬼志別*4などを経由して南稚内駅で再び宗谷本線に合流する路線でした。

むしろ歴史としては”本線”よりもこちらの方が古く、開通当時はこのルートが宗谷本線でした。のちに音威子府から稚内幌延経由で短絡する路線が天塩線として建設され、それが全通すると「宗谷本線」はそちらのルートに改められ、”元”宗谷本線は北見線と名前を変え、その後新たに天北線という名称が与えられたのです。

そんな天北線ですが、利用者減少の流れには抗うことができず、国鉄が民営化されてJR北海道が発足してから2年後の1989年、廃線となりました。

代替交通として路線バスが運行されるようになり、後に稚内~鬼志別のルートが宗谷岬経由になったことから、「天北宗谷岬」と名乗る長大路線バスが誕生したのです。

昨今の過疎化から、もはや路線バスすらも維持できる利用者数ではなくなり、2023年10月、ついに一部区間が廃止になり、天北宗谷岬線は「日本最長”だった”路線バス」となったのです。

今回はそんな天北宗谷岬線を全線走破するバスが健在だったころ、一部区間の廃止決定を聞きつけて乗り通しに行った際のお話です。

日本の長大路線バス(2024年)

1位 八木新宮線 大和八木~新宮 169.8キロメートル

2位 釧路羅臼線 釧路~羅臼 165.2キロメートル

3位 幌延留萌線 留萌~豊富 148.3キロメートル

では、在りし日の天北宗谷岬線がどのくらいの距離を誇ったかというと。。

稚内音威子府 171.7キロメートル!

すごい距離ですね。

「天北宗谷岬線」全線走破の運賃

これほど長距離の利用ともなると、通常のように車内の運賃箱で精算するのではなく、稚内駅前バスターミナルにある宗谷バスの案内所で乗車券を購入します。

稚内音威子府を乗り通す運賃、その額なんと・・・4,070円

運賃改定前の常備券を使いきっていないようで、マジックペンで訂正されている

ちなみにこの4,070円という運賃、仮に鉄道に置き換えるとどれくらいの距離を移動できるかというと。。

JRの運賃表に当てはめると、4,070円は「221~240キロメートル」です。

幹線または地方交通線のみをご利用の場合│きっぷのルール:JRおでかけネット

例えば、東京駅基準だと掛川駅郡山駅塩尻駅小千谷駅などが該当します。

乗車記

準備

この路線バス、全線走破するとなると5時間近く拘束されます。途中で何度か休憩(20分程度の停車)があるとはいえ、やはり事前準備が必要です。

トイレを済ませた後、稚内駅の売店で駅弁を購入しました。

なまらうまいっしょ海鮮弁当

前にJR北海道の車内誌で目にして以来、一度食べてみたいと思っていたお弁当です。

運よくラスト一個を手に入れることができました。危なかった。

稚内駅前バスターミナル~宗谷岬

宗谷岬までは観光路線でもあり、混雑する

稚内駅前バスターミナルの出発は9:39。これから5時間揺られることになるバスがやって来てしまいました。

とはいえ、途中の宗谷岬までは言わば観光路線であり、この日も多数の観光客でほぼ満員状態。車内はさながら都会のラッシュ時のような様相のまま約50分、宗谷岬バス停に到着です。

宗谷岬までは観光路線」というのは、言い換えれば「宗谷岬より先はほとんど需要が無い」ということでもあります。

本土最北端となる宗谷岬。ほとんどの乗客が下車。

宗谷岬~鬼志別バスターミナル

車内は私ともう御一方だけ

先ほどまで満員状態だった車内がご覧のあり様。乗客は私ともう御一方の2人だけになってしまいました。ちなみに、この方も結局私と一緒に音威子府まで乗り通しでした。

・・・そりゃあ経営も厳しかろう。

沿岸をひた走る

鬼志別まではしばらくの間沿岸を走るルートだけあって、とても良い眺め。初夏の天気も最高でした。

宗谷岬からさらに40分ほど走り、11:13に「鬼志別ターミナル」に到着。

ここは旧天北線の鬼志別駅があった場所で、建屋内には天北線の資料展示スペースが併設されていました。

鬼志別ターミナル。旧天北線の鬼志別駅があった場所。

駅名標や時刻表、備品類が展示されていた

バスはここで1回目の休憩。約30分間停車します。

運転士さんから「あそこ安いから、何か食料買っておくと良いよ」と近くの商店を紹介されたので、行ってみることに。

・・・定休日。おい!笑

運転士さんイチオシの「Qマート」は日曜定休だった。

鬼志別ターミナル~浜頓別ターミナル

約30分間の休憩を終え、11:45に鬼志別ターミナルを出発。

普段はまずしませんが、まあこれだけガラガラで誰も乗って来ず、バス停間の距離も長い路線バスなら許されるだろう・・と、稚内駅で買ってきたお弁当を食べることにしました。

(一応鬼志別での休憩中に、運転士さんに”車内で弁当を食べて良いか”と聞いたところ、”全然OKだよ”と仰っていただきました)

なまらうまいっしょ海鮮弁当

弁当箱が4つに区切られており、いくらご飯、かにめし、ホタテ丼、甘えび丼を同時に楽しむことができるお弁当です。

お弁当に甘えびというのは珍しい気がしますが、とろける食感でとても美味しかった。ただ、いくら・・・写真よりだいぶ少なくねっすか?笑

鬼志別から浜頓別は約1時間の道のり。12:44に浜頓別ターミナルに到着です。

ここで再び10分間の休憩。ちょうど、このバスの逆区間となる「音威子府発、稚内行き」のバスと行き違うダイヤになっており、2台の長大路線バスが同時に停車する風景になります。

前に止まっているのが乗ってきた音威子府行き、後ろが逆向きの稚内行き

浜頓別ターミナルは、「道の駅 北オホーツクはまとんべつ」に居候する形になっています。

ここもやはり旧天北線の浜頓別駅跡で、かつてはここから「興浜北線」が分岐していました。

館内には「こんがり堂」というパン屋さんが入っており、メロンパンがおすすめとのこと。せっかくなので、車内で食べようと思い、メロンパンとあんぱんを購入しました。

バスはガラガラでも、道の駅の館内は割と賑わっている。みんなマイカー。

オススメは「ブリオッシュメロンパン」

www.hokkaido-michinoeki.jp

浜頓別ターミナル~中頓別ターミナル

12:54に浜頓別を出発。次のバス停「浜頓別高校」が現在は天北宗谷岬線の終点であり、ここから先は2023年9月末をもってデマンドバスに置き換えられました。

次の休憩地点である中頓別ターミナルまでは比較的距離が短く、25分ほどで到着しました。

沿線にはひたすらのどかな風景が広がる

13:20に旧天北線の中頓別駅跡である中頓別ターミナルに到着し、ここで最後の10分休憩です。

この一帯は中頓別町により「天北線メモリアルパーク」として整備されており、広場には”キハ22形気動車”が静態保存されているほか、その近くには腕木式信号機が展示されていました。

またバスターミナル建屋2階にも、天北線の鉄道記念館が入居していました。

かつて天北線を走っていた車両と代替交通となった路線バスの車両

休憩中に運転士さんと話をするタイミングがありました。

僕は天北線の、それこそこの汽車が走ってた頃からここにいるけど、鉄道が廃止されたのは時代の流れもあったとはいえ、その代替だったはずの路線バスすらも最早維持できないような土地になってしまったんだと思うと、やっぱり寂しいよね。

と仰っていたのが、深く心に刺さりました。

普段当たり前に電車に乗り、バスに乗り、飛行機に乗り、車も運転してあちこちに行くことができるような栄えた土地に住んでいると、どんどん「足」が無くなっていく地方のことのことを忘れてしまいます。

中頓別ターミナル~音威子府駅

中頓別を出発するといよいよ最後の区間、ラストスパートです。

なお中頓別から地元の方が1名乗車され、途中の「ピンネシリ温泉前」で降りて行かれました。

宗谷岬から音威子府までの約4時間の区間、このバスを利用したのはわずか3名ということに相成りました。

約1時間ほど走り続け、ついに終点の音威子府駅に到着。稚内駅前を出発して約5時間、天北宗谷岬線を全線走破しました。

終点の音威子府駅

音威子府駅

音威子府は社員配置の有人駅であり、特急「宗谷」「サロベツ」も停車します。

とはいえ、JRの特急が停車する自治体としては最小の人口というだけあり、駅の利用者数もかなり少ないのが実情です。

構内には例にもれず「天北線資料室」が併設されていますが、今般天北宗谷岬線の廃止によりバス会社の窓口が閉鎖されたため、開館しているのは月~金曜日の平日のみ、9:30~16:00の時間帯と、なかなか訪問難度が高い資料室になりました。

音威子府駅天北線資料室。現在では平日の日中しか開館していない。

音威子府駅にはみどりの窓口もありますが、営業時間は8:15~16:10で日・祝は休業です。

私も「北の大地の入場券」を買おうかと思っていたのですが、あいにくこの日は日曜日。。。

www.jrhokkaido.co.jp

歩いてすぐの場所にある「道の駅 おといねっぷ」で時間を潰したのち、特急列車に乗って札幌方面へ向かうのでした。

かつては鉄道の町だった音威子府

おわりに

高速交通網が全国的に整備された今でも、百数十キロの距離を4時間ほどかけて走破する路線バスは、全国にいくつか存在します。

そのどれもが、順調な経営状況とは決して言えません。

しかしながら、特に鉄道を失った地方にとって、「路線バスが最後の足である」という方もたくさんいます。

高齢化や過疎化の進行によって公共交通の維持が課題となる地方が多くあるなか、地域の足である路線バスをどう守っていくか。あるいは発展的解消をさせることができるか。全国的な話として、待ったなしの問題であります。

 

というお話でした。 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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*1:といねっぷ

*2:なかとんべつ

*3:はまとんべつ

*4:おにしべつ